名古屋市で管理事務室を設けて旅館・ホテル営業の許可を取得する方法や注意事項

● 玄関帳場代替設備の基準とは?

一般的なホテルや旅館では、エントランスやロビーの先にあるフロントスペースに「カウンター」が設置されています。

旅館業法において、このカウンターが設置されているスペースのことを「玄関帳場」と呼びます。

この「玄関帳場」の設置にはルールが制定されています。

・玄関帳場から宿泊者の出入りを容易に見通せるようにすること
・玄関帳場を経由せず、客室へ出入りできる構造は禁止
・カウンターの横幅は1 m以上であり、宿泊者名簿など記入する台の幅は0.3m以上
・カウンターを挟んで直接対応できる十分な空間が必要
・カウンターより上面は開放させる(壁やカーテン等で遮へい禁止)

一般的なホテルや旅館ではロビーが広々としており宿泊施設内に玄関帳場を設置することは容易です。

しかし、戸建て住宅やマンションやアパートなど共同住宅の一室で上記の条件を満たして玄関帳場を設置するということは物理的に困難です。

そこで、名古屋市では宿泊施設から離れた場所に管理事務室を設ければ、戸建てやマンションの一室からでも旅館・ホテル営業の許可が取得できるよう、旅館業法の上乗せ条例として「玄関帳場代替設備の基準」を制定しています。

玄関帳場代替施設は一般的に「管理事務室」や「管理事務所」と呼ばれることが多く、一定要件を満たし管理事務室を設ければ宿泊施設内にはカウンターを設置せずとも旅館・ホテル営業の許可を取得すること可能ということです。

※マンションやアパートの場合、一部屋ごとにホテル・旅館業の営業許可を取得する必要がありますのでご注意ください。

● 管理事務室を設けるための一定要件

1.宿泊施設から管理事務室までの距離がおおむね1000メートル以内
2.管理事務室には常駐スタッフ(常時二名)を配置
3.宿泊施設と管理事務室の双方間で連絡が取れる通話機器の設置
4.宿泊施設に必要事項が記載されたマニュアルの設置
5.宿泊施設の玄関扉と管理事務室の玄関扉にそれぞれ標識を設置
6.宿泊施設の玄関扉の外側にカメラを設置
7.その他

一つ一つ説明していきます。

1.宿泊施設から管理事務室までの距離がおおむね1000メートル以内

道路距離80mを1分として計算した場合、1000mだと徒歩約12分圏内になります。
ただし、宿泊施設と管理事務室の間に例えば信号待ちの長い横断歩道や踏切などがある場合、それらの待ち時間も考慮されることがあるようですので注意が必要です。

2.管理事務室には常駐スタッフ(常時二名)を配置

お客様が滞在している時に限り、管理事務室には常時二名の人員を配置する必要があります。こちらの理由としては宿泊施設で何か問題が発生してスタッフが現地に行くことがある場合、管理事務室が空にならないようするための配慮とのことです。
登録する宿泊施設数を n とした場合、n+1 の人員が必要になります。
仮に一つの管理事務室を拠点に、住所の異なる二つの宿泊施設を登録する場合は、n+2 で三名の常駐スタッフが必要になります。
ただし、同じ住所で同じ建物内に複数の宿泊施設がある場合、常駐スタッフは二名で大丈夫です。

3.宿泊施設と管理事務室の双方間で連絡が取れる通話機器の設置

こちらはホテルや旅館にあるような内線通話のイメージです。スマホやタブレットを設置してWi-Fi経由のアプリ通話でも問題はありません。

4.宿泊施設に必要事項が記載されたマニュアルの設置

管理事務室の所在地や電話番号、アクセス方法を明示したマニュアルや火災や地震発生時の対応マニュアル、室内設備の利用方法を記したマニュアルなどを設置する必要があります。

5.宿泊施設の玄関扉と管理事務室の玄関扉にそれぞれ標識を設置

宿泊施設の扉には「旅館業である旨の記載、施設の名称及び住所、営業者名、管理事務室の所在地や電話番号」を記した標識になります。
管理事務室の扉には、「旅館業の管理事務室でる旨、宿泊施設の名称及び所在地、営業者名」を記した標識になります。イメージとしてB5サイズくらいの標識になります。

6.宿泊施設の玄関扉の外側にカメラを設置

玄関扉の外側に宿泊者の顔が認識できる位置にカメラを設置する必要があります。視認性が重要で解像度が低い場合は改善を求められる場合があります。カメラ映像は管理事務室でタブレットなどで常時確認できるようにする必要があります。

7.その他

管理事務室には机や椅子、宿泊者名簿、ゲストに渡す鍵などの配置も必要になっております。
なお、現時点におきまして管理事務室を設けている場合の宿泊施設では電子錠の利用は認められていません。
また、営業者が異なる他の宿泊施設と管理事務室を兼用することはできません。

● ゲスト対応のイメージ

管理事務室を設けての宿泊施設では以下のような業務フローになります。

・到着~チェックインまで

ゲストが管理事務室に到着
宿泊者名簿の記入
鍵の引き渡し

・滞在中

トラブル時はスタッフ1名が現地に訪問
残った1名はカメラ映像を確認

・チェックアウト

鍵の返却

● 一年に1回実施される保健所の立ち合い検査で確認されるポイント

管轄しているエリアの保健所職員の立ち合い検査が一年に1回の頻度で実施されます。
検査では主に以下の内容を確認されます。

・カメラの鮮明さ視認性の確認

・内線通話が問題なく利用できるかの確認

・宿泊者名簿確認、パスポートの控えの確認

・定員や構造が変わっていないかの確認

・施設内の消毒記録票や防虫対策記録票の確認

・シャワー設備の点検票の確認(シャワーヘッド、シャワーホース、スケールを定期的に消毒洗浄しているか)

・共同住宅で貯水槽がある場合は水質検査の実施(定期的に貯水槽を消毒洗浄しているか)

● 結論

民泊においては年間180日という営業日数の制限がありますが、「旅館・ホテル営業」にはそのような営業日数の制限がありませんので大変魅力的です。

しかし、管理事務室を設ける場合は上述の通り常駐スタッフを配置しないといけないため人件費などの固定費が発生してしまいます。

「旅館・ホテル営業」にされる場合は営業日数制限の撤廃だけにとらわれず、総合的に判断する必要があります。